Fujimae Booklet 2

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まとめ

 

5 まとめ  

 

 広島県五日市における人工干潟造成は、工事完了後7年を経過するものの、現在でも干潟面の傾斜の変化、泥土の粒度組成の変化が続いており、生物量も、年により増減があるものの、全体としては減少傾向に変化しているように見受けられる。まだまだ生態系として安定しているとは言いがたい状況である。これは、「アサリがよく採れる場所が毎年変わっている。」というような、地元の人達の話からも伺うことができる。

 ある意味では、いわゆる「おかず漁」で頻繁にこの場に出入りする人達の方が、たまにやってきて、ごく一部を調べる者よりもはるかに正確に生物の変化を捉えているからである。

 したがって、現時点では「成功」「失敗」といった結論を出すには時期尚早である。当地区においては、造成工事前に広島県からの依頼で日本鳥類保護連盟が調査を行い、「人工干潟造成について指針となる事項」を提示している。また、工事完了後も追跡調査が継続されており、今回の調査を行うにあたっても1994年の今村氏の調査報告書は、きわめて貴重な情報を我々に提供してくれた。当地区では、人工的に造られた環境における生態系の変化を捉える上で、貴重なデータがとられているのである。

 事前の調査や、その結果を(ある程度)反映した事業及び事業後のケア(流出した泥土の補充の為の予算を組み、干潟の維持に努力している事等)といった観点から、即ち、行政とNGOの協力ができている点で「広島県五日市地区の人工干潟造成工事」は「成功例」なのであり、工事完了後2.3年という時期に行われた調査結果のみをもって「人工干潟の成功例」とすることは実に不遜な態度であり、かつその調査を行った者に対して失礼な行為である。

 極端な話ではあるが、今後、生物量が増加し続け、現在の数倍、という状況になったとしたら、現時点だけでの評価は著しい過小評価となってしまうであろう。逆に、このまま泥土の流出が続き生物量が減少し、干潟維持の努力を放棄した結果、数十年後に、投入した海砂が全て流出したとしたら、それを「成功例」と言えるであろうか。

 前述したように、この人工干潟は、まだ安定しているとは言いがたいし、変化の途中の一点をみて全体の結果を云々することはきわめて危険である、ということを認識せねばならない。

 また、確かにある程度の生物量を示しはするものの、生物種についてはどうか、と考えると事業前の八幡川河口干潟の優占種はコメツキガニとアナジャコであったものが、事業後の優先種はアサリ・ゴカイになっているようである。代償措置として干潟は造ったが、同じ質のものが造られたわけではない。

 過去数年のデータ、及び今回の調査結果から判断するに、底生生物量は減少傾向にあり、流出泥土の補充、波浪の影響を低減するフェンスの設置といった、干潟維持の努力なくしては存在し続けることすら難しいのではないか、と思われる。

 投資した費用に対して得られた結果からみた場合、残念ながら芳しい結果とは言えないというのが正直なところである。

 



 

五日市人工干潟底生生物調査

1998 年5 月26 日調査実施

現場調査参加者:
花輪伸一(WWFJ )、吉田正人(NACS‐ J )、小嶌健仁、加藤倫教、
鈴 木晃子、伊藤恵子、辻 淳夫(以上5 名SFA )

情報提供協力者:
浜田氏(広島県港湾課)、日比野政彦(日本野鳥の会広島県支部)、
古南幸弘(日本野鳥の会)、湯浅一郎(中国工業技術研究所)

参考文献
今村 均 人工干潟の造成による環境保全対策
―生態系と生息環境の追跡調査事例―
(1994 )


 

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