藤前干潟埋立計画および
人工干潟など代償措置に対する意見
佐々木克之
寺井 久慈
佐藤 正典
高田 博
西川 輝明
佐々木克之 |
中央水産研究所・海洋生産部
物質循環研究室 |
新聞情報によれば、名古屋市は埋立着工と平行して代償措置としての人工干潟造成を進めるとのこと、これに対して運輸省が認可申請までに代償措置について科学的な見通しをはっきりさせるよう求めているとのことです。私の意見は、運輸省の考えは正しいし、運輸省の言う科学的な見通しを得るには数年は必要で、今すぐ埋立を強行しようとしている名古屋市の要望は無理だということです。
もう一度新聞情報を整理すると、専門家でつくる自然環境保全措置検討委員会は、46.5ヘクタールの処分場建設で失われる渡り鳥のえさ場などを補う方法として、約18.8ヘクタールの人工干潟の造成と、既存干潟12.2ヘクタールのかさ上げなどの方針を8月に決めた。検討委は人工干潟の効果を確かめるため、先行して試験施行をする必要があると判断、既存干潟に接続し、環境に大きな影響を与えない場で試験を行う方向で合意した。
1. 誰がどのように責任を持つのか? …失われる場所とひき換えに新たな場所を造成するので埋立を認可してもらう、という考えは一見良いように思われるかもしれないが、失われる干潟は自然が長い間に自然科学的真理の法則が作用してできたものであり、造成される新たな場所は人智に基づくもので、これを同列に扱うことはできない。新たな場所が代替機能を持つことを証明するのは、今までの知見に基づけばかなり困難と思われる。
とくに問題なのは、試験を行い、たとえ良い結果がでても本施行でそのようになるのかを予測するのがかなり困難と思われ、造成後代替機能がない場合、誰がどのように責任を果たすのか、このことを明記しなければ、人工干潟の造成は認められないと考えます。また、試験結果が良いのか悪いのかの判断基準はどうするのか、これも問題です。
藤前干潟は日本におけるシギ・チドリの極めて重要な中継地として知られています。極めて残念なことに現在藤前干潟と同程度に重要な中継地であった諫早湾は失われつつあり、藤前干潟の重要性がいよいよクローズアップされている現在、このくらい慎重でなければならない情勢にあります。少なくとも、代償措置としての人工干潟をめざすならば、その前に整理しておかなければならない問題点をクリアーする必要性を強調したいと思います。
1)人工干潟が代償措置たりえるとする根拠をどのようにして明らかにするのかを示すこと。
2)造成された人工干潟が予期に反して代償措置を持たないとすると、誰がどのように責任をとるのか。
2. なぜ人工干潟が代償措置となりうるのかを説明しなければならない…多くの人工干潟が良い成績をおさめていません。それは、干潟が砂などの干潟を形成する懸濁物質と流れ・波浪の相互作用で決まるものですが、これを予測して今まで干潟が無かった場所に安定的な干潟を造成する技術が未完であるからです。したがって、極めて重要な意味をもつ藤前干潟の代償措置のための人工干潟を造成しようとするならば、なぜそのような困難を克服できるのかを反対するものへ示す義務・責任があります。新聞情報を読むかぎり、やれば何とかなるだろうという、いわゆる"後は野となれ山となれ"式発想があるように考えています。これはそのくらい責任のある問題であることを認識し、そのことを具体的に示さなければ、無責任な対応と非難されるべきで、当然認められない問題です。
3. 責任問題は予定されている埋立計画にも適用される…今までのアセスメントは、埋立によりどれだけ失われるのかという問題が中心であったが、埋め立て地を造成することにより、周辺はどれだけ影響を受けるのかという問題は十分に検討されてこなかったと思います。例えば、埋め立て地は鉛直もしくは緩斜面護岸が作られるでしょうが、そこに付着したイガイなどの付着生物は死んで底質を悪化させたり、流れが弱くなることによる地形変化などが予測されますが、これをどれだけ科学的に予測できるのか、この問題も明らかにすべき課題です。
4. 結論として言えることは、人工干潟の代償措置機能の解明は、科学研究の段階の問題であり、事業の段階の問題ではないということです。もし、事業の段階の問題であるというならば、そのことを明らかにする責任があります。科学研究の段階の問題であるならば、早急には結論が出ない問題であり、ゴミ問題が焦眉の課題であるとするならば、代替地問題が最重要課題ではないでしょうか。反対する人々が提案した代替地がゴルフ場であるという話を聞いて、名古屋市の正常な判断力を疑います。
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