Fujimae Booklet 2

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◎ 底生生物現存量の推移

 以上述べてきた底生生物現存量が、人工干潟造成後どのように変化したのかを調べるため、今村報告のデータと合わせ、下のグラフに表した。1991年2月より1992年12月までが今村報告の干潟低部の出現生物の湿重量データであり、1998年5月が本調査のデータである。A地点は造成の後に山砂を入れた場所であるため、この地点のデータは除外した。

 上のグラフに示すように造成直後(1991年2月)から造成1年後にかけて現存量が非常に大きくなっている。その後は減少傾向にあるが、特に造成後7年経った現在の現存量は造成直後の5分の1以下、もっとも生物の多かった92年6月の10分の1となっており、この五日市人工干潟の底生生物が極めて少なくなったことを示している。

 今村報告によれば、1992年6月の調査では干潟低部における生物湿重量の90%がアサリであったが、個体数はゴカイが多く、生物相は河口干潟を上回っていたということである。造成7ヶ月後の粒度組成が礫分20%、砂分76%、シルト・粘土分4%であることから、92年6月の時点での干潟の粒度組成はおそらくこれに近いものであったと推察され、干潟底生生物の生息環境としては良好であったと思われる。しかしその後、前述のように粒径の小さな粘土・シルト、細砂が流出し、潟土には礫ばかりが残るようになり、底生生物が摂取する有機物が留まりにくく、巣穴を形成することも困難となる。この底生生物現存量の著しい低下は、もはやこの場所が干潟生物にとって住み易い環境ではなくなったことを意味している。

 干潟は自然状態であれば、陸から砂・泥などが干潟がやせない程度に供給され、河川から流入した有機物も膨大な数量の干潟生物が取り込み、利用することで生態系のバランスが保たれているのであるが、人工的に砂を入れて造った干潟では、まず第一に物理的に砂の流出・沈下を防ぎ、干潟がやせないように維持することは非常に難しく、その上で干潟生物を自然状態に近く生育させることはさらに困難であることは、想像に難くない。上に述べたような底生生物の減少は予想されたことであり、人工干潟の限界をあらためて知らされる結果となった。

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