Fujimae Booklet 2

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寺井 久慈 名古屋大学
大気水圏科学研究所

 名古屋市の西一区公有水面(藤前干潟)埋立ての免許申請に際して、これまで名古屋市の環境影響評価準備書について意見書を提出し、見解書に対する意見表明と公聴会における意見陳述を行ない、また1997年秋の追加調査結果についての意見表明などを行なって来た者として、名古屋市の環境影響評価書および「干潟の整備計画」に関して以下のような多大な問題点があると判断されます。関係各位におかれましては、干潟生態系に対するわが国の施策が国際的な注目を惹いていることにも鑑みて、申請の埋め立てが適正か否か厳しく判断されるよう要望致します。

(1) 経緯: 本環境アセスメントは、埋め立て面積46.5haとして1994年1月より実施され_(1996年7月に_「環境への影響は小さい」とする環境影響評価準備書が発表されたものである。これに対して事業者の見解が発表されたが、何ら出された意見に耳を傾けようとせず、準備書の主張するところ(「環境への影響は小さい」)を糊塗するものに過ぎなかった。(例えば、「渡り鳥は周辺の干潟をよく利用するが藤前干潟の利用率は1%以下」とか「新川河口干潟には浄化力があるが藤前干潟にはない」など、実際に調査を経験した者には恣意的で非科学的なデータの扱い方としか考えられない結果を示している)。このために公聴会開催が請求されたが、公聴会は紛糾・延長の結果、1997年5月、7月、8月の3回にわたり開催されることとなり、この中で様々の問題点が浮き彫りになった。

* 西一区埋立ての港湾計画が105haのまま変更されていないにも拘わらず計画を縮小したとして46.5haでアセスを行なっている。(これ以上埋め立てないということは公聴会で追求されて始めてその方向に向けてアクションを起こしている)

*「とくに水鳥の生息地として国際的に重要な湿地」としての基準を満たす藤前干潟について、ラムサール条約登録を目指して国(環境庁)が鳥獣保護区に設定する意向であるにも拘わらず、この情報を秘匿、無視して環境アセスを推し進めた。

*ゴミ埋立ての代替地は西五区(20年以上前に埋め立てた遊休地、指摘されて最近ゴルフ場として整備に取りかかる)や南五区(愛知県内の産廃埋立地でゴミが少なく経済的にピンチ)など指摘されているにも拘わらず、真面目に検討した形跡がない。

 この間、名古屋市環境影響評価審査委員会から要請のあった追加調査について、春は時間的余裕がないとして、1997年秋(8-11月)に鳥類と水質浄化機能に関する追加調査が実施された。不十分な調査ながら、この中で影響範囲を200mとして鳥類の藤前干潟利用率も50%を越え、水質浄化機能も植物プランクトンおよび付着藻類の光合成、底泥の溶出実験、潮汐の干満における底泥間隙水の動態などから明らかになった。

 この追加調査結果も踏まえて、1998年3月名古屋市環境影響評価審査委員会は、この干潟埋立て事業は「鳥類などの生息環境及び周辺水域の水質等干潟生態系に影響を及ぼすことは明らかである」とする環境影響評価審査書を発表した。事業者が「環境への影響は少ない」とする環境アセスメントに対してこれを否定する審査書が出されたことは、わが国の環境アセスメントの歴史においても画期的なことであろう。しかし、それほどに環境への影響が明らかに認められる事業に対して、審査委員会は事業の見直しではなく「本事業を実施する場合には、次のような自然環境保全措置を実施すべきである」として「人工干潟の造成、既存干潟の部分的嵩上げなど」の検討、「自然環境保全措置検討委員会」の設置及び「周辺干潟域の鳥類・底生生物などの生息状況や水質などについて環境モニタリング」の実施を提言している。これにもとづいて、名古屋市は1998年6月自然環境保全検討委員会を組織し、同7月の愛知県知事意見(県環境影響評価審査委員会答申)を受けて、同8月20日に環境影響評価書を発表し、同8月21日「干潟の整備計画」とする人工干潟案を併せて運輸省に公有水面埋立の免許申請を行ったものである。

(2)「干潟の整備計画」の問題点

 本整備計画においては、水面下18.8haの干潟化、既存干潟の嵩上げ部分12.2haを含む総面積38.2haを整備区域とするものである。干潟面積29.9ha、総面積46.5haを埋立てするために上記(1)に述べた経緯で環境アセスの手続きが踏まれ、4年半をかけて環境影響評価書が出来上がった。しかるに、この干潟整備計画においては、何ら環境アセスの手続きも経ずに水深50cm以内の浅海域の埋立てを実施しようとするものである。低潮時の水深6m以浅の海域はラムサール条約の対象水域となりうる貴重な水域であり、既存の干潟と一体の浅水域生態系を構成しているものである。このような生態系を改変する場合、ラムサール条約の「湿地のワイズユース」の観点からは、その構成生物種や密度、種間関係および物質循環過程や水質浄化機能などについてその現状を把握し、しかる後にその改変が有効か否かを検討する必要がある。単にゴミ埋立てにより消失する干潟面積に見合う面積のみを計算して海面下の埋立や干潟を嵩上げしようとする計画は干潟生態系抹殺の犯罪を二重に犯すものである。干潟整備計画に関しては正規の環境影響評価の手続きを踏むことを要望する。

 

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