Fujimae Booklet 2

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(3) 藤前干潟埋立て環境影響評価の問題点

 藤前干潟埋立ての環境アセスにおける様々な問題点は、意見書や公聴会における意見陳述および名古屋市や愛知県の環境影響評価審査委員会などにおいて指摘されている。渡り鳥の中継基地としての重要性、水質浄化や内湾・沿岸漁業資源における役割、次世代に継承できる貴重な自然遺産である、ゴミ最終処分場の逼迫は市のゴミ対策の怠慢に責任がある、藤前干潟以外の代替地が真面目に検討されていない、「自然との共生」を謳う万博開催の理念に反する、などの多岐にわたる観点から論じられている。

 ここでは、私が水質浄化機能や干潟生態系に関する研究に携わっていることから、その面での環境アセスの問題点について述べることにする。
 先ず基本的な問題として、ラムサール条約でいわゆる「湿地生態系のワイズユース」を考える時、湿地の果たす役割を正しく評価することが求められている。干潟生態系の果たす役割を正しく評価することが環境影響評価の目的でなければならない。しかるに、藤前干潟の環境アセスにおいては干潟の生物種、量に関する調査(鳥類以外)は1994年の春夏秋冬各1回で計4回、水質浄化機能に関しては夏冬の2回と1997年の追加調査で1回補足したに過ぎない。しかも干潟の調査にもかかわらず、追加調査を除いては大潮の干潮時に干潟が干出した時点の調査は行なっていない。このような粗雑なサンプリング、干潟の特性を考慮しない調査では、干潟を正しく理解する知見は得られない。千葉県が行なっている東京湾三番瀬の開発計画に関わって行なわれている生態系調査では、1年間の調査では何も得られないということから、2年間の追加調査が行なわれ、専門家により当該生態系の特徴が把握できるデータが得られたということである。このことから考えても1年間の調査では1997年秋と1998年春の部分的な追加調査を含めても、藤前干潟についてはまだその本当の価値が把握できる程のデータが得られたとは思えない。そのような状況の中でも、干潟の水質浄化機能に関して準備書や見解書では「新川河口干潟には浄化機能があるが、藤前干潟にはない」としていたものを評価書では「藤前干潟にも浄化機能がある」とせざるを得なかった。これは浄化機能の計算を干潟生態系モデルを用いて行ったもので、干潟生態系構成生物種の現存量と食物連鎖(捕食・被捕食)関係、排泄・分解、底泥からの栄養塩溶出などから窒素循環量を算出し、干潟における総窒素除去量を浄化の指標として示したものである。意見書や公聴会などで指摘されたように、干潟の底生生物の現存量評価をスミス・マッキンタイヤー採泥器で行っていたため、干潟最表層部の生物種、生物量しか把握できていなかったのである。(これも小潮の冠水時のサンプリングしか行なっておらず、干潟の特性を把握する調査法ではない)。1997年秋の追加調査でアクリルパイプコアー法で1m深度までの採泥を行なって、はじめて泥質の藤前干潟の特徴であるアナジャコのバイオマス把握が出来るようになった。これにより、懸濁物食者による水質浄化機能が夏季藤前干潟で 5.6mgN/平方m/日(見解書)とされていたものが93.7mgN/平方m/日(評価書)と見直され、総窒素除去量も−21.9mgN/m2/日(見解書)で浄化機能はないとされたものが 47.3mgN/平方m/日(評価書)の浄化機能があると見直された。

 

(準備書・見解書)

(評価書)

(夏季のみ
データ抽出)

藤前干潟

新川河口

藤前干潟

新川河口

水中有機物の
底泥への堆積

113.8

111.0

112.4

159.5

懸濁物食者の
水中懸濁物
濾過

5.6

117.5

93.7

194.9

底泥からの
栄養塩溶出

−141.3

−176.2

−158.8

−174.2

(O-N除去量)
−(I-N溶出量)

−21.9

52.3

47.3

180.2


             (単位:mgN/平方m/日)

 評価書では、藤前干潟でのみ底泥からの栄養塩溶出が増加しているが、これは付着藻類の光合成が82.4 mgN/平方m/日から 55.4 mgN/平方m/日に下がっていることによると思われるが、その理由や詳しい計算過程が公表されていないので詳しい議論はできない。しかし、溶出については1997年秋の追加調査で、アンモニアの溶出は当然であるが、硝酸に関しては底泥へのかなりの吸収が認められており、溶出が過大評価になっていることを考慮する必要がある。

 

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