以下に、東なぎさにおける、アナジャコ類の分布と土壌成分との関係を述べる。
一般に、アナジャコ(Upogebia major)の巣穴はY字型であり、巣壁は、その表面から酸化鉄を含んだ強固な粘土層が数mmの厚さに存在する。これは、腹肢により水流を起こし、前肢のフィルターにより水中の懸濁物質をろ過して食べる、というアナジャコの採餌行動により、酸素を含んだ水が巣壁表面の鉄分を酸化する為で、結果として彼らの巣穴は非常に丈夫で安定したものとなる。
ところで、土壌中に粘土粒子が少ないと、いわゆる「つなぎ」が無いため巣壁が崩れてしまう。また、新規着底個体は、個体自身が小さいため、粗砂主体の土壌には巣穴を掘るだけの力が無い。
結果として、アナジャコは、粘土粒子をある程度以上含んだ土壌を好む様であり、東なぎさにおいては、それはB地点であると言える。
地盤高との関係から言えば、アナジャコはスナモグリよりも低い部分を好むようであるが、当地区においては、地盤高の低いA地点にはアナジャコは分布せず、B地点に非常に高い密度で分布する。また、C地点においては、地盤高が高く、かつ土壌粒子が荒く、粘土粒子をほとんど含まないため、アナジャコ類はほとんど分布していないと思われる。
東なぎさにおいて特筆すべきは、調査時期(6月第2週)は、アナジャコの新規個体が着底し、成長している時期であるにもかかわらず、それが全く見られなかった事である。
同時期の藤前干潟においては、1,500〜2,000 個体/平方mの密度で新規着底個体が見られる。広島五日市の調査においても、64〜264個体/平方mという数値が得られた事からすると、当地区においては、 @
新規個体は着底せず、これに連なる自然干潟である三枚洲で着底し、成長してから移動してくる。とすれば、アナジャコについては、結局自然干潟なくしては、生物種を維持できない事になる。
あるいは、B地点で採集された個体の大きさがほぼ同じ(頭甲胸長は23、24mm)事や、サンプルコアを通る巣穴径が、ほぼ同じ事などから、 A何らかの要因で、現在当地区に分布するのは、2年目に入った個体ばかりで、本年度生殖に参加した個体がいない。即ち極めて不安定な生息地であり、環境の変動が大きい地域であるということになる。
等の理由が考えられるが、後者についてはやや無理があるように思われる。
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