Fujimae Booklet 2

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まとめ

 

5 まとめ  

 葛西人工海浜(東なぎさ)は、造成されて10年以上が経過するが、各種の調査、報告を読むと「まだまだ生態系として安定したものにはなっていない。」という感想を持つ。

 しかし、実際に現地を訪れてみると、「なかなかよく出来たなぎさではないか。」という感想もでてくる。

 ところで、現在我々が問題にしているのは、「藤前干潟における、代償措置としての人工干潟」についてであり、その観点からみれば「やはりまだまだか。」と言わざるを得ない。

 人工干潟あるいは人工なぎさ、といったものを評価する際に、それが如何なる目的で造られたのか、ということを忘れてはならない。葛西の人工なぎさ(東なぎさ)は、自然干潟である三枚洲につながる、自然保護の目的で造られたものであり、代償措置として評価するならば、自然干潟と同じ生態系を有し、同じレベルの浄化能力を示さねば成功したとは言えない(もっとも、このような短いスパンで評価をしようということからして間違いなのだが)。

 参考までに、西なぎさについては市民の憩いの場として機能しており、その意味では成功している。と言えるであろう。しかし、ここでは泥の堆積が盛んなため、市民の憩いの場としての快適性を維持するために、泥の除去が必要となっているという。

 東なぎさは、上述したように自然保護・環境の回復を目的として造られたなぎさである。 こちらは生物種・生物量ともに変動が大きく、安定した浄化能力を提供するレベルには到っていない。「人間が造ってここまでできた。」ということを評価する事はできても、「人工干潟として、天然のものとなんら変わるところがない。」とはとても言えない。

 造成前、造成後と続けられている生物調査においても、生物種は減少しているのに、特定の種類だけが大量発生して生物量が増加したり、逆に生物種が増えているのに生物量は減少したりと実に不安定な状態である。さらに、江戸川・荒川が洪水を起こした際には、この周辺の水域の塩類濃度が低下し、海洋生物の生息環境を不安定にしているとも言う。

 今回の生物調査においても、A地点での湿重量の大きさには目を見張るものがあるが、今後もこの数値が安定して示されるのか。といわれると考えてしまう。シオフキガイだけが突出して多いのである。生物量が多いと言って喜ぶと言うよりむしろ、バランスが崩れているのではないか、と思える。

 「規模は小さいものの、干潟が存在した水域に造成しており、将来的には沖合いに向かって干潟が形成され、安定した水質浄化機能が発揮される。」

 と言われていながら、もともとあった自然干潟の力を借りてすら、十余年経っても安定していないのである。我々はまだ、自然の生態系の持つ微妙なバランスや、バランスを崩した場合の回復力の大きさまでは到底真似できないのである。

 十年前ならいざ知らず、世界の流れが、自然保護・環境保全へと変わってきた今日、わざわざ存在する自然干潟を潰して、代償措置という言葉の下、人工的に干潟を造って何をどこまでできるというのであろうか。我々は、五日市や葛西の人工干潟で(そんなことはわかっていることなのだが)自然の生態系が持つ力の大きさ・絶妙なバランス、そしてそれを真似することが如何に難しいかを目の当たりにしているのである。

 調査方法についても少し触れておく。我々が行う「調査」とは、同一条件の下で一部分を捉え、比較することはできる。しかし、それが全てではない。今回の底生生物調査でも、コードラート法だけでは捉えられない生物量が現にあるわけで、アナジャコ類まで入れた場合、B1地点の生物量は湿重量で約2倍になるのである(このサイズのアナジャコ1個体が5〜6g、1平方mあたり99個体の生息で、湿重量約500g増;595g/平方mマ1000g/平方m超)。

 「これをやったからよし」といって、わかっていながら無視する事の無いようにせねばならない。

 

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