Fujimae Booklet 2

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 人工干潟の造成に山砂を使用した場合のもう一つの問題点は、山砂の供給源である山地を破壊する、ということである。

 中間報告でも述べられているが、干潟環境の創出の為に、山地を破壊していては、湿地の環境回復と言いながら別の環境を破壊していることとなる。

 山砂との関係からもう一点述べると、五日市の場合、失われる八幡川河口干潟と同質の干潟を、ということで造成されたのであるが、結果としては潟土の粒度組成の違い・圧密沈下・細粒成分の流出等により、かつての干潟に棲息していた優占種とは違った生物種が優占種となってしまった。特に、底生生物の棲息条件としては、潟土が泥質か砂質かといった粒度組成条件は無視できない。

 上記のことから、人工干潟の造成に山砂を使用することは、底生生物の生息面から、また、産地の環境破壊の面からすすめられない。

 次に、底生生物の種類と量の面から考えてみたい。

 葛西人工海浜東なぎさは、自然環境の回復を目標に、当初から浚渫泥を使用して造成された。土壌粒度組成的には、自然干潟にもっとも近いと言える。ところが、この中でも、粒度組成が微妙に違い、A地点ではシルト、粘土分の少ない組成に、B地点では藤前干潟にもっとも近い組成、C地点では、山砂を使用した人工干潟に近い組成となっている。

 このうち、藤前干潟に似た底生生物種と量を示したのは、やはりB地点であり、特にアナジャコなどは、非常に高い密度で生息していることが確認できた。

 A地点では藤前干潟東の新川河口干潟に似た結果となっている。また、C地点は、藤前干潟の例からもっとも遠いものとなっている。

 山砂の使用された人工干潟の場合で、特徴的なのが広島五日市の場合である。

 五日市の潟土の粒度組成と、藤前・葛西東なぎさのそれとを比較すると、図1のグラフからはわからないが、表1の粒度組成を見ると、藤前、葛西東なぎさでは、細砂のうち0.15mm以下のものが90%以上を占めている。逆に、五日市の場合、この粒度のものは10%程度しかないことがわかる。さらに、五日市では礫で10mm以上のものまで含まれている。このため底生生物量はあまり期待できないのではないか、という印象を受ける。しかし、実際に調査してみると、意外に多くの生物量がある。

 これは、五日市人工干潟に隣接して、八幡川河口干潟の一部が残存しており、ここから底生生物の幼生が供給される、又は新規個体が移動してくるためであると考えられる。

 もう一つは、工事後の山砂の投入等により、流出した細粒分がある程度補充され、アナジャコの大型個体などであれば、干潟低部には何とか生息できるからであると考えられる。

 このことは、五日市と似た粒度組成を持ちながら、底生生物の供給源を持たない(供給が難しい)大阪南港の生物量との比較からもうかがい知ることができる。

 粒度組成に関していえば、葛西人工海浜西なぎさは、市民のレクリエーションの場として解放することを目的として、本来の粒度よりも粗い砂を投入し、アサリが採れるように計画されたという。

 この場合は、明確な目的があって、それに従って計画し、目的にあった粒度の潟土を造ったわけであり、このような意味で山砂を使用する、というのであれば評価できるというものである。もっとも、西なぎさでは、江戸川・荒川の泥土が堆積し、砂質干潟が泥質化してしまい、アサリの収量が減少し、シオフキガイが増加したのだとか。

 このように、単に粒度を揃えればそれでよい、というほど簡単でもなく、周辺の河川の流量、運搬してくる堆積物の粒度・量、潮流といった条件も全て考えあわせねばならない。

  

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