Fujimae Booklet 2

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まとめ

 

6 まとめ  

 人工干潟の造成のために投入される砂の粒度組成は、どのような性格の干潟を造るのか、また、その干潟に定着する底生生物の種類がどのようになるのか、といった点から慎重に検討されなければならない。

 人工干潟の土壌粒度組成と自然干潟のそれを較べて一見してわかることは、山砂を投入してつくられた人工干潟では、本来そこには存在しないサイズの粗砂・礫といった大径の粒子がかなり多量に含まれていることである。

 干潟に投入するものは、単に砂であれば何でも良いということは全くなく、安易に山からの砂を投入すれば本来河口干潟には存在しないサイズの礫が混ざることになり、底生生物の棲息に影響を及ぼす。また、人工干潟のために大量の山砂を採取すれば、山を破壊することになり、これは結果として、その山の下流域への有機物供給を減少させ、干潟を含めた浅海域に影響を及ぼす恐れが多分にある。

 自然状態の河口部では、流速の低下とそれに伴う運搬能力の低下により、細砂、シルト〜粘土といった細粒の粒子が主体となるが、今回調査を行った広島五日市、大阪南港では、礫が30%程を占め、逆に細砂以下の粒度のものは多くて40%代であり20%を割り込む場合すらあった。また、大部分が礫質、という条件の場所(五日市干潟上部)では、底生生物はほとんどみられなかった。これは、本来細粒の土壌粒子であれば、有機物残渣、水分を保持することができるが、礫質のみでは間隙が大きすぎて水分は保持されず、有機物残渣はほとんど堆積しないため、底生生物が棲息できない状況になるためである。

 では、その場にある浚渫泥ならよいのか、というと、採取場所、採取方法にも十分な配慮が必要である。かつての東京湾では、海砂の浚渫により浅海域に深みを造り、結果として貧酸素水塊の発生を招き、浅海域に大きなダメージを与えた。「人工干潟を造る」といって、人工干潟予定地の近辺から浚渫したのでは、浚渫による埋立となんら変わるところがない。

 また、水流を阻害し、流路を変化させること、水流を停滞させることで何が起きるかは、サツキマスの遡上が減少し、アオコが発生し、堰の下流に数十cmのヘドロを堆積させた長良川河口堰を見れば一目瞭然である。

 海岸から外海へと緩やかに深度が増し、徐々に変化する環境は、生態系、物質循環の見地から非常に重要であり、浅海域に段差をつくること、水域を分断することは厳に慎まねばならない。このことは、東京湾の例、長良川河口堰、諌早湾の閉め切りなど、環境に大きな影響を与えた多くの事例が示していることである。


人工干潟底生生物調査
―粒度組成分析結果―

1998年12月

現場調査参加者:
花輪伸一(WWFJ)、吉田正人(NACS-J)、
古南幸弘(日本野鳥の会)
加藤倫教、鈴木晃子、伊藤恵子、辻 淳夫、小嶌健仁
(以上5名 SFA)下線は編集担当

参考文献
土木学会 編  土質試験のてびき


 

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