Fujimae Booklet 1

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3.環境保全に向けての提言

 

 実際のところ、我々の調査も、アナジャコのライフサイクルすら、確実に捉えておらず「この2年の底生生物の激減が貧酸素水塊の上昇によるものである。」と結論づけることは、私個人としてはやや二の足を踏む部分があるのも事実である。しかし、到らないなりにも継続している調査に現れた結果と、名古屋市の環境アセスにおいても貧酸素水塊の発生が確認されている事、かつての東京湾が、「浚渫による深場の大量造成」で、ヘドロの海と化した事例等を考え合わせると、いわば状況証拠として、藤前干潟西側の「深み」は、底生生物の大量死の元凶といえる。

 ここが自然の干潟であれば、仮に貧酸素水塊が数回発生し、底生生物が激減したとしても、おそらくすさまじい回復力を示して、立ち直ってくるであろう。しかし、藤前干潟の場合、状況がかなり特殊で、いわばガラス細工のような、箱庭のような「干潟」である。したがって、最低限、かつて破壊した部分、バランスを崩す原因となり得る部分については修復する必要がある。

 ただし、断っておくが、これは、名古屋市が出した「干潟の整備計画」のように、「土木工事的発想に基づく、環境破壊事業」を奨励するものではない。

 負傷、疾病と医療技術に例えるならば、これまでの日本は、開発の美名の下に環境に対して、過大な負荷を与え、いわば自傷行為を繰り返してきたといえる。
 「この怪我を治して欲しい。」
 というのが現在の要求である。具体的には、
 「藤前干潟西側の「深み」を、周囲の地盤高に合わせた水準まで埋める。」
 ということである。この際にも、巨大な重機や、サンドポンプによる激しい、一気呵成な「埋立」ではなく、時間をかけ、変化を最小限に押さえた工法によるものでなければならない。

 自然の治癒能力をこえた負傷、疾病の治療には、場合によっては毒劇物や、荒療治が必要であるかもしれないが、だからといって、治療部位以外の健全な部位を切り刻むような愚行は厳に慎まなければならない。

 そうして、負傷した部分の治療をすると同時に、
 「怪我をしない、病気にならない身体。」
 を創らねばならない。具体的には、
 「新川から流入する汚濁負荷を減少させる。」
 ということであり、あるいは、
 「藤前干潟北側の堤防斜面に徐々に覆土を行って緩斜面とし、自然環境に近づける。」
 ということである。

 

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