Fujimae Booklet 1

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はじめに

 

 長い間の念願がかなって、藤前干潟のゴミ埋立が断念された。追われ続けてきた渡り鳥と、私たち自身に大きな希望をもたらしてくれたことを喜びたい。
 しかしあらためて藤前干潟から視野を広げて伊勢湾全体をみなおすとき、過去の開発によって傷つけられ、今なお癒されることのない無残な姿が見えてくる。
 最近海の博物館がまとめられた「伊勢湾の環境」(CD-ROM版)では、驚くばかりの漁獲量の激減や貧酸素水塊の拡大で死に瀕した伊勢湾の実態を示すデータが並んでいる。そればかりか、中部新空港などのあらたな浅海域の埋立や、海上の森での万博構想など水源の森を破壊するプランも目白押しである。

 実は私たちも、1997年から続けているアナジャコ調査を通じて、藤前干潟でも、例年、夏の終わりに貧酸素水塊の直撃を受け、アナジャコやゴカイなどに大きなダメージを与えていることを知った。その原因は伊勢湾の汚染も関係するだろうが、直接的には藤前干潟の中央部にある、幅180m、長さ400m、深さ5mの大きな深みにあると推測されるのである。この深みは、1953年の伊勢湾台風後の堤防復旧のために土砂を採取した跡といわれ、断念されたゴミ埋立計画の環境アセスメント評価書にも、この深みで貧酸素水塊の発生が見られることが指摘されている。

 私たちは、いまだ明らかでないアナジャコのライフサイクルを調査する過程で、1998年と1999年の秋口の、いずれも台風の接近直後に、貧酸素水塊の直撃を受けたと思われるアナジャコの大量死に遭遇し、継続調査に大きな撹乱を受けた。干潟の生態系のはたらきを、明らかにするために調査しているのだが、その前に生態系に大きなダメージを与える貧酸素水塊への対策を急ぐ必要があると、教えられたのである。まずは、これまでの調査データをまとめ、貧酸素水塊がどんな悪影響を与えているかを明らかにしたい。そしてこの深みが、浚渫による大きな傷跡であり、一刻も早く修復させる必要があることを知ってもらいたい。

 今、世界の沿岸環境と湿地保全の流れは、「保全」から「復原」である。
 1999年9月の藤前フォーラムで現地を訪れたアメリカの魚類野生生物局のピーター・ベイ氏も、藤前干潟が残されたことを大いに評価しながら、過去の開発で失われている本来の自然環境を取り戻してゆくための示唆を、いくつかくださった。
 この調査結果を活かして、藤前干潟の修復をはかることをその第一歩にしたいと思う。

藤前干潟を守る会代表 辻 淳夫

 

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