Booklet 01 P.4

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「アメリカへの従属は賢い選択であった」

田原総一朗の
基本認識。

 

1、新国家主義の歴史観  
 

 その時司会をしていた田原総一朗が、『中央公論』誌の2000年1月号に『新しい「戦争の時代」が始まった』という評論を書いている。そこで彼は、現在を、日本が米国への従属によって平和と繁栄を享受し得た時代が終わり、やむをえざる自立を強いられる関係が始まった時代としてとらえ、自立する日本とその日本をたたく米国との関係は、「新しい戦争」の時代へ突入したと認識すべきだと論じている。彼がいう「新しい戦争」とは、米国との経済戦争を意味しており、彼のいう自立は、米国が押しつけてくる「アメリカ標準」を受け入れつつ、米国との経済戦争に勝つという自立であり、日米安保を廃棄して政治的にも自立を図ることを意味しない。

 彼はこの自説を導くために戦後日本の政治・経済過程を概括しているが、その歴史観によれば、戦後日本がアメリカへの従属という道を選択したことは「すばらしく賢明な選択」であった。サンフランシスコ講和条約締結の後、当時の首相吉田茂は、「正しいか間違っているか、正か邪かの判断ではなく、得か損かを考えて」、主体的にアメリカへの従属を選択した。田原は、その選択を「大正解」だったとする。そして「この選択こそが、第2次大戦以後、日本を世界第二の経済大国にし、半世紀以上、一度も戦争に巻き込まれない平和を手にしたのだと何度でも強調しておきたい」(同誌、103ページ)とのべている。したがって、自立しても「アメリカとだけは仲良くする」という路線を変えてはならない、という。

 この結論づけの際だった特徴は、戦後50年の日本の政治経済を論じて、日米関係以外の、とりわけアジアとの関係が全く無視されていることである。いや、そういっては正確ではない。戦前の歴史を顧みているところで、「満州国」の建国も、当時の国際関係でうまく立ち回われば国際的に認知され得たはずだという認識をのべているから、日本帝国の植民地支配の挫折を、欧米諸国の帝国主義の仲間入りさせてもらう交渉技術の拙さという見地から教訓化しようという論旨でならアジアにも言及している。この論理を今後に向けて適用すれば、これから再び政治大国の仲間入りするのだから、過去の失敗にまなんで自国の権益を主張し、他国を譲歩させる交渉技術を高めよ、ということになる。そうした点を含めて、この論文は、いま力を得つつあるナショナリズムの一側面を鮮明に示していると思える。

 

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