Booklet 02 P.16

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「学校の常識、世間の非常識」という事態はないのか、自ら検証することが求められている。
学校との関係はその子の人生にとってほんの一部にしか過ぎないが、親子は死ぬまで親子
既存の学校システムを改革するための具体的案を示すのはもちろんのこと、オルタナティブな教育の創造を推進することを抜きにして展望は開けない

 

 

(5)学校も「情報公開・説明責任・政策評価」を

 私は、学校もまた税金により運営されている「公の機関」である以上、上記の3点セットを実施することは納税者に対する責務であると考える。果たして、「学校の常識、世間の非常識」という事態はないのか、自ら検証することが求められているのではなかろうか。

 学校で行われていること、行おうとしていることについて「情報公開」し、その目的・根拠や成果、反省点や改善策などについて、子どもたちや保護者、さらには地域の人々に「説明責任」を負うということについては、誰しも異論はないと思う。

 しかし、このような問題意識や取り組みが、学校現場にどの程度浸透しているのかについては、かなり疑問を持たざるをえない。理不尽な校則や繰り返される体罰、いじめに対する不適切な対応などは、このシステムがきちんと機能すれば相当に改善されるであろうし、「内申書」をめぐる疑心暗鬼や様々なトラブルも大幅に減少するのではなかろうか。

 ただし、「政策評価」は、何をもってその学校の成果とするかについて、価値判断が分かれるであろうから、慎重な取り扱いが必要と思われる。「偏差値の高い学校への進学率」や「各種大会におけるクラブの優勝回数」を評価基準にしたい人も数多くいるだろし、「生活体験の重視」や「ゆとりのある学校生活」など、数値化しにくいことに価値を求める人もいるであろう。一般行政における政策評価の手法をそのまま当てはめることには無理があろうし、これが教職員に対する勤務評定と結びつけられるならば、非常に危険なものとなる。しかし、だからと言って、この課題を回避して良いということにはならない。具体案を記すほどの能力はないが、少なくとも何らかの形で、子どもたちが授業内容や学校の事業について評価し、意見を述べるようなシステムは必要と考える。

(6)最も大切なのは親の意識改革

最後に、これまで学校に対する厳しい意見を述べてきたが、登校拒否への対応について言うならば、私は最も大切なのは親自身の意識改革ではないかと考えている。何故ならば、学校との関係はその子の人生にとってほんの一部にしか過ぎないが、親子は死ぬまで親子だからである。学校にわが子の人生について保障を求めることなどできない相談であり、それは親自身の責任なのである。親として一番大切なことは、その子が自分らしく生きるために何を求めているかをしっかりと受けとめることであり、親の価値観を押しつけたり、子どもに代わって親が判断したりすることではない。学校に行く、行かない程度のことで、大切な親子関係を破壊するような過ちを私は二度と犯すまいと誓ったが、その思いは今でも変わらない。 

 もし、親自身が学歴や学校に対する強いこだわりを持ち、過度な競争主義的教育システムの中にわが子を追い立てているとするならば、「子どもの命がけの異議申し立て」の対象には、学校や社会だけではなく、「家庭」も入っているかもしれないのである。このことを棚に上げて、学校や社会を批判するだけでは何も変わらない。

 今一度、親として、何のためにわが子に学校に行ってほしいのか、あるいは「できるだけ良い高校・良い大学」への進学を望むのはなぜなのか、ちょっと立ち止まって考えて見てはどうであろうか。このことは、登校拒否児の家族に限らず、国民全体にとっても、これからの教育のあり方を考える上で大切なテーマではなかろうか。

 21世紀初頭の日本は、国や社会のあり方を巡って様々な潮流がぶつかりあうであろう。大きくは、新保守主義的な社会再編を目指す潮流と、市民社会の成熟を目指す潮流との対抗になると思われるが、「教育改革」も大きな焦点のひとつとなるであろう。新保守主義の潮流が目指すのは明らかに教育基本法の改悪であり、その延長上に憲法改悪が見えて来る。しかし、繰り返しになるが「教育基本法を守れ」ではこの潮流に対抗することはできない。市民社会の成熟を目指す潮流にとって、既存の学校システムを改革するための具体的案を示すのはもちろんのこと、オルタナティブな教育の創造を推進することを抜きにして展望は開けないと、私は考える。

 

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