市民が提案する
「国営瀬戸海上の森里山公園」のマスター・プラン

 

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 2.「国営瀬戸海上の森里山公園」の基本理念・
                 目標と管理運営の原則


 
 以上に述べてきたようなことを学ぶ中で、わたしたちは、以下のような基本理念・目標を設定し、管理運営の原則を定め、それに基づいて国営公園の構想を考えました。

 1)基本理念

 @ 自然に学び、「自然との共生」の思想を具体化する
 A「里山自然と文化の保全」をコンセプト(基本理念)に公園化する

 日本は、明治以降、西欧の科学技術を取り入れ、他のアジア諸国に先駆けて近代化を成し遂げました。西欧の科学技術の根底にあるのは、人間が自然を支配し、自然を人間が制御可能なものとして捉える思想です。自然は未開であり野蛮であり、人間が手を入れて制御することが文明である、という考え方です。人類は、そのような考え方で自然を征服し収奪してきました。しかし、開発が進み自然が失われるとともに、人が住めないような環境が出現するし、自然からの逆襲を受ける事態にまで至りました。大量生産・大量消費・大量廃棄によるゴミ問題,大気汚染、水質汚染であり、熱帯雨林の破壊、酸性雨・砂漠化など、生態系の破壊、地球温暖化など地球規模の環境問題の発生です。人類は生存の危機に直面しています。

 近年は、その反省から、「自然との共生」という思想が生み出されました。それは、人間は自然の中で、自然の恵みに依存して生きてきたのであって、自然を支配し征服するというのではなく、自然に学び、自然と共存してしか生きられないという自覚です。その中から、自然のシステムを壊さないで「持続可能な社会」を築くことが課題となっています。科学技術はもちろん、生産のあり方そのものから、わたしたちの生活のあり方までを含む大きな変革を迫られています。

 60年代以前の日本の「里山システム」は、まさに「自然との共生」であったのであり、現代社会の問題を見直す貴重な材料となります。そのような思想をもとに、里山システムを復活しようとするのが、この構想の基本理念です

 2)目標

 1. 生物多様性を保持すること
 2. 里山の民俗・文化を保全すること
 3. ゼロ・エミッションを実現すること
 4. 環境(里山)教育の場とすること

 海上の森の多様で豊かな生物相の維持・保全を目標とすることは言うまでもありません。それと同時に、里山の民俗・文化を保全することが重要です。昔の里山は、自然の恵みを余さずに使い、ほとんど廃棄物を出さない生活でした。その廃棄物も、自然に還元できるものでした。つまり、ゼロ・エミッションの社会だったのです。それを目標にします。建物その他の生活用具は大地に還元可能なものを使用します。ここを訪れる人々に、そのような里山環境の意義を理解していただく教育が必要です。環境教育というのは、子どもだけに必要なものではなく、大人にも必要です。ここは里山ですので、環境教育というよりも「里山教育」(自然環境教育+生活環境教育)といわなければならないと思われます。

 3)整備計画および管理運営の原則

 1. 地権者・住民の意向を尊重すること
 2. 行政の主体性を確保しつつ、
   市(NGO)・研究者の参加による整備計画の策定および管理運営であること

 当然のことながら長くそこに住み生活している地権者の権利が守られなければならないというばかりでなく、地域を熟知している人々として、整備計画や管理運営に参加することが重要であるからです。Aについては、ともすると整備計画や管理運営が行政主導となりがちですが、公園を利用する人々の意見や長く当地を歩いて動植物を熟知している人々、研究者として地域の自然や動植物を研究している人々の意見が取りいれられなければ、里山の自然と文化の保全という国営公園の目的が達成されないと考えるからです。実際には、行政・市民(NGO)・研究者の三者からなる協議会のような恒常的な組織を作って、整備計画や管理運営に当たるようにすることが必要となるでしょう

 

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