市民が提案する
「国営瀬戸海上の森里山公園」のマスター・プラン

 

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 3.里山公園構想の具体化の基本的な考え方


 
 以上のような組織と運営体制で、国営公園の具体的な運営をしていくことになります。それはあくまでも、先に述べた「里山自然と文化の保全」の基本理念を具体化することです。

 1)海上の森の地域的特性を生かす

 海上の森といっても面積が540haもあって、地域(流域)によって様々な特色があります。海上の里の周辺、北海上川の流域、南海上川の流域、屋戸川流域、吉田川流域など、地形・地質、植生、水系の流量、動物の分布、歴史的な文化財の分布など様々です。そこで、海上の森を特色を持ったいくつかに地域に分け、それぞれの特色が生かされる構想でなければなりません。

 2)昔ながらの里山林の活用

 1960年代以前の里山は、その里山林が生活財やエネルギー資源として利用されてきました。ですから、ただ単に山の木を切るだけでは維持できないので、それを利用する方法も同時に考えなければ、里山システムは完結しません。それこそ、ゼロ・エミッションにはならないわけです。炭焼き、薪としての利用、焼き物の窯の燃料としての利用などが考えられます。しかし、それは1960年代以前から行なわれてきた方法であって、現代ではそれほど大きな需要があるとは考えられません。しかし、宿泊施設などでは、暖房用・炊事用や風呂焚きに木炭や薪を利用していきます。

 3)現代的里山管理

 それを基本としつつも、さらに現代的な里山管理の方法を考えることが必要です。現代では、廃棄される樹木をチップにしてそれを燃やすことによって発電しその熱を利用する技術が開発されています。木質熱電供給システムです。これは環境への負荷も低いので、この構想に大胆に取り入れ、発電された電気によって施設の電力とするように考えます。それには、大量の木材が必要です。海上の森の伐採林だけではまかなえなければ、近隣の里山林を利用するなどすれば良いでしょう。それは、他の地域の里山をも復活させることにもなります。バイオ・エネルギーの開発も研究対象とすべきでしょう。他にもあるでしょうが、まだまだ山の樹木や竹を利用して採算が取れる技術は少ないのが現状です。それらを研究することが必要です。「里山公園」とはいっても、すべてが60年代以前にタイムスリップして里山に復元するというのではなく、現代的な里山林利用の研究・実用は重要な課題です。

 4)生物多様性を損なわないための研究機能の重要性

 しかし、注意しなければいけないのは、樹木を伐採することが海上の森の生物多様性を損なうことであってはなりません。どのように樹木を伐採すれば生態系を破壊することなく、生物多様性を維持できるのか、どのくらいの面積の伐採なのか、伐採時期はいつごろが良いのか、皆伐するのか樹木を選定して伐採するのか、選定して伐採するとすればどの樹種を切れば良いのか、下草刈りの方法はどうか、このような問題はほとんど分かっていません。伐採や除草・下草刈りを実施する前に、正確な生物調査を行い、伐採後も定期的な事後調査を実施し、どのように生物多様性が変化したのかを研究し、最も良い方法を見つけ出すことが必要となります。里山公園の管理運営と研究センターの研究とを有機的に結び付けて、より良い公園の運営がなされる必要があるでしょう。

 つまり、この里山公園に重要なことは、研究機能を持たせることです。幸いにも、海上の森は広い面積を持っています。たとえば年に10ha(たとえば1haずつ10個所)伐採したとしても、全部を切るのに50年もかかります。全体から見ればほんの少しの面積であって、全域に大きな影響を及ぼすことはありません。少面積ずつその実験をしながら、より良い里山管理の方法を編み出すことができるならば、その成果は他の里山地域でも活用できます。つまり、この里山公園を、全国の里山管理の研究センターとして機能させ、発信をするのです。海上の森だけを囲いこんで保全し、他の里山についてはどうでもよいわけはありません。海上の森を質の高い里山公園とすることが、ひいては身近な自然を保全することにならなければなりません。

 また、ギフチョウなどの貴重な昆虫類が、心ない昆虫マニアによって乱獲されています。捕虫網を持ち込み、貴重種や希少種を絶滅に導くことになることは避けなければなりません。しかし、虫採りは自然に親しみ、知る一つの方法として一概に禁止することはできません。そこで必要なのは、ガイドや観察会などの役目です。どうして、何を禁じるのかを理解してもらうのも、自然教育の一環です。

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