市民が提案する
「国営瀬戸海上の森里山公園」のマスター・プラン

 

Page
2


はじめに―
なぜ、今、里山公園構想を提案するのか?
 

 
 愛知県瀬戸市南東部にある海上の森は、名古屋大都市圏にあって、開発からかろうじて残された里山自然の宝庫ともいうべき場所です。海上の森およびその周辺には、種の保存法で猛禽類の筆頭に上げられる絶滅危惧種オオタカが営巣し、同じく絶滅危惧種のサンショウクイ、サンコウチョウなど120種以上もの鳥類が生息します。また、シデコブシ、サクラバハンノキ、サギソウなどレッド・リストに上げられた生育環境が危ぶまれる種や、東海地方固有の植物を含む1000種を越える植物が確認されています。さらに、ハッチョウトンボ、ギフチョウなどの貴重な昆虫類を始めとした2000種以上が生息します。海上の森にこのような多様な生物種が生息するのは、里山林に人手が入り、猿投山地と一体となって分断されずに、つながりを持った広い森と水系に恵まれているからに他なりません。それゆえに、海上の森は、その自然を楽しむためのハイキングや自然観察会・探鳥会が行なわれるようになり、多くの県民・市民に愛されてきました。

 この森をこわして、愛知県は、2000戸6000人のニュータウンにしようという計画を立てました(正式には瀬戸市南東部地区新住宅市街地開発事業といいます。長いのでここでは新住事業と呼びます)。それは、愛知県の地方計画で、豊田市から瀬戸市にかけての丘陵地を「学術研究開発ゾーン」として開発する上位計画に基づいています。その後、国際博覧会(以下、万博事業という)を開催する計画がなされましたが、単独で事業をするには莫大な事業費がかかりますので、新住事業で造成した土地を借りて万博会場候補地とすることになりました。また、新住事業にも万博事業にもアクセス道路が必要になるため、名古屋瀬戸道路と県道若宮八草線の計画がなされたのです。2本の巨大な道路が海上の森を東西に分断し、海上の森の真ん中を新住事業でつぶします。現在の静かな海上の森が、高層住宅が林立する喧騒の街となるのです。

 いずれも、バブル経済に酔いしれていたころにできた計画です。その事業には、莫大なお金がかかります。現在は、財政緊急事態宣言を出さなければならないほど、苦しい愛知県の財政です。万博・新住・道路事業だけではありません。中部新空港も同時着工です。巨大な公共事業を二つも抱えるなんて、今の愛知県には到底そんなお金を出すことはできませんし、借金して行うとすれば、そのツケはすべて県民の税負担となって、後の世代の人々を苦しめることになります。もっとお金がかからない方法を考えるべきです。それが私たちが提案する国営公園構想でもあるのです。

 現在、この三事業は、環境アセスの行政的な手続きの最中であり、新住事業についてはその最後の手続きである評価書が出され、この12月には都市計画決定がなされようとしています。万博事業も評価書案が出されて通産大臣の意見書を受けて、環境アセスの手続きを終える予定です。これまでに、わたしたちは何度も県庁に足を運び、一方的にすすめられる行政手続きに抗議したり、準備書の内容を検討してその不備を指摘したりいろいろのことをしてきましたが、愛知県や万博協会はただ強引に事業を進めることしか考えておらず、私たちの批判に一切耳を貸さない姿勢を取り続けてきました。そして、新住事業のための工事が年度末から行われる事態にまで立ち至ってしまったのです(この経過については、巻末の経過表を参照してください)。

 このような緊迫した状況の中で、わたしたちは、何としてもオオタカが舞い、シデコブシが咲き乱れる海上の森を破壊から守らなければならない、ムササビやタヌキの棲家を守りたいと願っています。ですから、わたしたちの意見がまったく取りいれられないままここまで進んでくると、多くの人々に納得できて実現性があり、しかも行政にも受け入れやすい「対案」(カウンター・プラン)を作成することが必要になりました。それが、今、国営里山公園構想を提案する理由です。

 以下、わたしたちは、先ず「里山」がなぜ重要なのかを述べ、具体的に愛知県の里山の分布における海上の森の意味、そして里山としての海上の森の里山環境の変遷史を追ってみたいと思います。それを踏まえて、後半に「国営公園」にする理由や具体的な海上の森の里山公園構想について述べることにします。

 

 |前のページへ▲|▼次のページへ

 目次/2/3/4/5/6/7/8/9/10/11/12/13/14/15/
16/17/18/19/20/21/22/23/24/

● 表紙に戻る
● 目次に戻る
● 読者カード(アンケート) この「マスター・プラン」に対するご感想をお聞かせください。
 ライブラリー TOP

 電子出版のご案内