市民が提案する
「国営瀬戸海上の森里山公園」のマスター・プラン

 

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二、愛知県の里山分布と海上の森の歴史  

 
 1. 愛知県の里山分布と猿投山一帯の連続した森の意味


 1)愛知県の里山マップ

 海上の森は、総面積が540haもまとまって存在し、落葉広葉樹林が広い面積を占め、いたるところに貧栄養湿地が存在することが特徴です。そのような里山は、他にも愛知県に存在するのでしょうか。

 里山といっても、海上の森だけを見ていただけでは、海上の森がどのような特色があり、貴重であるのかが分かりません。1960年代以前には、いたるところに里山が広がっていました。わたしたちは、そのような愛知県の里山がその後の開発によって次第に切り刻まれ、減少していった、その崩壊のプロセスを知り、さらに具体的に森林の減少と林相の変化も知りたいと考えました。

 里山について人々の関心が集まるようになったのは最近のことであり、また里山の定義もあいまいなことから、里山の広域的な分布をまとめたものはほとんどありません。その中で、愛知県環境部が行った調査「里山自然地域保全事業全県調査報告書」(平成9年度(1997年度)、15万分の1付図)が唯一のものです。これは、おおむね標高300m以下の地域で、森林面積が65%以上を占め、およそ100ha以上のまとまりのある森林区域を抽出して地図化したものです。この定義のみで里山をすべて規定できるかは問題がありますが、現時点ではこれを利用するしかありません。また、これには、里山の分布を示すのみで、その林相たとえば人工林、落葉・常緑広葉樹林などの区別がなく、詳細は分かりません。しかし、ここでは、一応その定義に従って里山区域とします。したがって、標高300m以下に限定したために、三河山間部や猿投山の山頂部は除かれていることをお断りしておきます。

 2)愛知県の里山の激減とその林相変化

 10年ほど前に農地林務部が調査した「愛知県林相図」(平成元年(1989年)、15万分の1)があります。また、昭和33年(1958年)作成の「愛知県林相図」(20万分の1)もありました。後者は高度経済成長期以前、里山が広がっていた時代のもので、大変貴重です。これらは林相図ですので、スギ・ヒノキなどの人工林と広葉樹林・松林などが区別されて図示されています。

 先ず、2枚の林相図を見比べてみて、現在に近い前者と約40年前の後者の林相図の違いに驚きました。全体に森林が減少していますが、知多半島から尾張丘陵地域での森林の減少はすさまじいものです。名古屋大都市圏の都市化による市街地の拡大のもたらした結果です。約40年前は、知多半島から尾張丘陵の地域は大部分が松林となっています。そして、足助町や下山村など以東の愛知県の山間部は、昔から林業の盛んな村々でしたので人工林が多かったのですが、それでも山地の尾根や奥地はほとんどが松林や広葉樹林で覆われていました。それが現在は、松林と広葉樹がほとんど消え、人工林に取って代わりました。

 この林相図では、松林と広葉樹林というのは、松林が約5割以上を占めれば松林、それ以下であれば広葉樹林としたのであり、マツは昔から自然に生えていたものと植林されたものがあると思われます。当時は、戦中・戦後に森林を伐採して洪水や土砂災害が多発したために、治山治水の国策事業として山への植林がされ始めていました。その樹種は、燃料用および砂防用に主としてマツが植林されました。また乾燥した痩せ地は、スギ・ヒノキなどの人工林は植林に適さなかったため、そのような土地にはマツが植林されました。花崗岩地域が広い三河山間部では、今でも山の尾根部には松林がたくさん残っています。

 その後、1960年代には農林省の補助金でスギ・ヒノキの植林が一斉に行われ、松林や広葉樹林はどんどん減少していきました。ところが、その後1970年代になって、木材の自由化に伴い外国産の安価な木材が大量に輸入されて木材の価格が暴落し、林業が衰退していきました。そして、スギ・ヒノキの植林地は放置されたままとなってしまいました。1989年の林相図では、その状況を反映して人工林の面積が著しく拡大しています。かつて松林や広葉樹で覆われた里山においても、人工林の拡大は著しく進んでいることが分かります。

 スギやヒノキは、はじめは密に植えて競争させ、成長に伴って成長の悪い木を伐採していき(これを間伐といいます)、成熟した森となります。下枝を切り取らないと、節の多い木材となり、商品価値が下がります。間伐をしない森は、やせ細った樹木しかできませんし、林床に光が入らず暗い森になり、下草もなくなってしまいます。現在はそのような人工林が大部分なのです。人工林は、間伐などの適切な手入れをしていれば、落葉広葉樹林に比べれば生物多様性は劣りますが、多くの生物の棲家となり、また十分な保水機能・砂防機能もある森林となります。人工林を評価しないのは正しくありません。

 1997年の愛知県環境部作成の里山マップに、1989年の林相図から読み取った林相を書き入れた図を作成しました(この里山マップでは、国有林は除いてあります)。ところで、国土庁が作成した「土地保全図」(平成3年、1991年)の中に、「現況植生図」があります。それは、1980年代に調査された植生分布図をもとに、愛知県全域の植物種群落の分布図(15万分の1)としてまとめられています。それでは植物種が分かります。多少古い資料ですが、それを見ると、現況とそれほど変化していないと考えられます。

【資料】
愛知県里山マップ(1997年 愛知県環境部)
愛知県林相図(1958年)
愛知県林相図(1989年 愛知県農林部)
里山マップ・林相図(1999年)

 

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